マンハッタンから江戸・浮世絵の世界まで―
飯森&TKWOが4つの「街の情景」を駆け抜ける!
富樫鉄火(音楽ライター)
「私たちはここにいるぞ、と叫ぶ5分間のオープニング曲」―作曲者ジョン・マッキー自身がそう呼ぶ《アスファルト・カクテル》で幕をあける、今回の定期。「ここ」とは、ニューヨーク・マンハッタン9番街(コロンバス・アベニュー)のこと。タクシーやトラックが行き交う「街の情景」をモチーフにした曲だ。
実は、今回の定期のテーマは、「街の情景」。吹奏楽ならではの描写力がふんだんに発揮される名曲が、ずらりと並んだ。
マッキーにつづいてマンハッタンを描いたのが、おなじみヤン・ヴァンデルローストだ。曲名もズバリ、《マンハッタンの情景》。だが、おなじ街が題材ながら、マッキーとはおもむきがちがう。マッキーは生まれも育ちもアメリカで、実際にニューヨークに住んでいたことがある。だがヴァンデルローストはベルギー人だ。そんな“異邦人”の視点が、マンハッタンをどう描くのか。
3曲目も、やはりマンハッタンだが、今度はエリアが広がる。ナイジェル・ヘスの《イースト・コーストの風景》だ。ニューヨーク近郊のリゾート、シェルター島やキャッツキル山脈とマンハッタン中心部を描く。ヘスはイギリス人なので、これまた“異邦人”。ロイヤル・シェイクスピア劇団の元専属作曲家で、TV・映画音楽のベテランだけに、まさに「街の情景」が目に浮かぶような音楽を聴かせてくれる。
だが、最後は、おなじ「街の情景」でも、あまりにおもむきが変わる。場所も時代も一気に飛んで、「江戸」である。大人気作曲家、フランコ・チェザリーニの交響曲第2番《江戸の情景》だ。歌川広重の『名所江戸百景』から5枚の浮世絵をチョイスして音楽化した、全5楽章構成の大作だ(当日配布のプログラムでは、その5枚の浮世絵を掲載して解説の予定)。日本ファンのチェザリーニだからこそ実現した企画で、ひとときのタイム・スリップを体験するようなスペクタクル・シンフォニーである。日本のおなじみの旋律も次々と登場する。
今回のマエストロ、首席客演指揮者の飯森範親は、すでにTKWOで、交響曲第1番《アークエンジェルズ》、《青い水平線》などのチェザリーニ作品を取り上げており、どれも熱狂的な好評を得ている。初秋の一夜、マンハッタンから江戸・浮世絵の世界までを一気に駆け抜ける、飯森&TKWOならではのひとときを、ぜひお楽しみに!〈敬称略〉