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【第163回定期演奏会】指揮者&作曲者トークセッション

2024/01/22
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2024年1月26日(金)なかのZERO 大ホールにて開催される第163回定期演奏会では東京佼成ウインドオーケストラと正指揮者の大井剛史が共同委嘱した新進気鋭の若手作曲家福丸光詩さんの新曲を世界初演します。
委嘱に至った経緯や聴き所など福丸さんご本人と作曲の師匠でもある中橋愛生さんに正指揮者の大井剛史がお話を伺いました。

Part 1 動画版はこちら
音楽との邂逅、作曲の道へ
――新進気鋭の作曲家 福丸光詩さんの成長と挑戦

福丸さん、音楽を始めたきっかけについて教えていただけますか?

福丸
最初に音楽に触れたのは小学3年生の頃で、姉がピアノを習い始め、家に電子ピアノがやってきました。その中にあるサンプルの音源にモーツァルトのトルコ行進曲があり、それを弾けるようになりたいと思いピアノを習い始めました。その後、小学校6年生の時に金管バンド部が創部され、そこでトランペットを始めることになりました。ピアノよりも管楽器の演奏が楽しく感じ、中高と吹奏楽に没頭する中で作曲家という存在に興味を抱くようになり、大学では作曲科に進学しました。大まかに言えば、これが私の音楽の始まりです。
大井
なるほど。僕は栃木県出身なんですが、福丸さんも同じ栃木県出身で、作新学院高等学校の吹奏楽部で活動していたそうですね。

その高校生のときに、2014年4月の私の正指揮者就任披露の定期演奏会を聴きに来てくださっていたという話を聞いていますが。

福丸
はい、その通りです。実はその演奏会で佼成ウインドさんの演奏を初めて生で聴くことができました。その佼成ウインドの演奏も素晴らしく、本当にいまだに過去一番の印象的な演奏会だったなと思っているのですが、実は、その演奏会に行ったのには中橋先生に会いたいというもう一つの目的もありました。1曲目が科戸の鵲巣だったので、もしかしたら中橋先生に会ってお話できるかもしれないという考えでした。
当時、高校二年生の僕は進路をどうするかを考えて、日本で1番の吹奏楽の作曲家といったら中橋先生だろうと思い、そんな中橋先生に習いたいと思っていたわけです。

それでそのときは中橋さんに会えたんですか?

福丸
はい。休憩時間に僕は3階の上の方から聴いてて下を覗いたら作曲家の長生さんと並んで座られてたので今がチャンスだと思って突撃しました。そこでサインもついでにもらいました。
休憩時間に中橋先生とお話しする中で、個人的にプライベートで習いたいと伝えました。しかし、中橋先生は忙しくプライベートでは教えていないとのことで、門下生になるなら東京音楽大学に入学する必要があると言われました。それならば、と思い、大学進学を決意しました。こうして、大学から大学院を含めて8年間、中橋先生の門下生として学び続けています。
大井
その2014年のエピソードは舞台で指揮をしていた私は全く知る由もなかったわけなんですけれども、その1年後に僕は福丸さんと会ったんでしたっけ?

福丸
そうです。その翌年、佼成ウインドが宇都宮に訪れた時、大井さんにお会いしました。当時は高校3年生で、演奏会の裏方をしていたと思うのですが、本番が終わった後、大井さんの楽屋にお邪魔しました。その時、東京音大に行って中橋先生に習いたいということを相談した覚えがあります。大井さんは、中橋君(中橋先生)は自分のダチだから、もし本当につきたいなら僕からも紹介できるが、厳しいことも言われると思うけど大丈夫?とおっしゃっていました。その後、大井さんが電話をかけてくれると言ってくれたのですが、私は怖くてその時は辞退しました。これが初めて大井先生にお会いしてお話しした瞬間でしたね。

その後、福丸さんはどのようにして東京音楽大学に進学されたのでしょうか?

福丸
実はその後、冬期講習会で麹場富美子先生にレッスンを受けた時、「今年は間に合わないから私が隔週で面倒見てあげるから浪人しなさい」と言われました。僕もその気だったのでその年は記念受験のつもりで受けましたが、結果は補欠合格でした。ただ、合格者の中の僕の友人が芸大に入学することで枠が1つ空いたため、最終的には現役で東京音楽大学に入学することができました。

実はそこから後のことは僕はあまりよく知らないんです。実際に中橋さんにレッスンを受けるようになってどんなことを中橋先生は教えてくださったか、そして中橋先生から見た福丸さんっていうのはどんな学生でどんな風に成長していったのかを教えてください。

福丸
大学1年生の初回のレッスンに行って、今まで作曲したことはないんだけど、中橋先生みたいな理念で吹奏楽を書きたいと話をしたことがあったなと今思い出しました。
その時に中橋先生に言われたのが、まず1回吹奏楽の外に出なさいということでした。吹奏楽以外の編成や音楽形態で何ができて何ができないのかを知らないといけないからまずは外に出て2年でも3年でも勉強して、それでもなお吹奏楽を書きたかったらその時戻ってくればいいっていうこと言っていただきました。それ以来、作曲を勉強して8年目になりますけれども、吹奏楽に戻る機会なく、そのままいわゆる芸術音楽とか鉤括弧付きの現代音楽の魅力に取り憑かれて勉強してたんですが、これをきっかけにまた再び吹奏楽の作曲に帰ってくることができたっていうのは本当に嬉しく思っています。
大井
すごく素晴らしいアドバイスだと思います。初回のレッスンでおっしゃったことに中橋さんの理念が含まれてると思います。

では中橋さんから見て福丸さんはどんな生徒だったのでしょうか?

中橋
大学に入る前からアプローチしてくれて、東京音大に入ったら見てあげるよと言ったのはよく覚えています。ただ、そういう話をしても、実際に来ることは滅多にありません。過去に何人かそういう子はいたのですが、実際に東京音大に来たのは福丸君しかいないんです。なので、「本当に来た」という驚きが彼の第1 印象です。吹奏楽を書きたいんだったら他のことを勉強してくださいと言うのは、本当に書きたいのかどうかを見定めるという意味でもいろんな音楽にまず触れて、見識を広げるってことが大事だと思っているからです。 福丸君っていうのはとにかく僕に習い始めようと思ったときのエピソードからも分かる通り、1回思い始めたら絶対に曲げない。それは作曲のレッスンのときもそうなんです。こう書いた方がいいんじゃないかとアドヴァイスすると嫌ですと言って突っぱねることがよくありました。しかし、それは彼が自分の考えを強く持っているからで、ただ意固地になっているわけではありません。 大学に入った当初はそんなに特筆すべき光ったものを持ってるというわけではありませんでした。しかし、アンサンブル・モデルンというドイツの現代音楽の室内合奏団のワークショップに参加して帰ってきた辺りからの成長ぶりには目を見張る物がありました。その後日本音コンや松村賞という大きい作曲賞で一位を取ったり、委嘱の話をいただく機会も増えましたし、ニューヨークで日本の若手作曲家を紹介するMUSIC FROM JAPANにも推薦していただいて、今度作品が初演されることにもなっています。なのでそのモデルンの時に一体何が起きたのか個人的にも興味があります。
大井
アンサンブル・モデルンのワークショップが福丸さんにとってターニングポイントだったのですね。
福丸
まさにターニングポイントでした。そのモデルンに演奏していただいた曲というのは、システムに則ってほとんど機械的に作曲していくようなスタイルでした。やったことがない作曲スタイルに挑戦したのですが私の中では大失敗だったんですね。演奏はもちろん素晴らしかったのですが、自分で納得できない作品を提出してしまったことで、自分の作曲の姿勢、システムに頼ってしまった自分を反省し、もう1回勉強し直してちゃんと納得いくものを時間かけて書けるようにしなきゃいけないと思い始めました。東京音大では中橋先生と原田敬子先生に習い、国際的に活躍されている細川俊夫先生のゼミに学部の頃から潜り込ませてもらってビシバシ鍛えていただきました。そのくらいの頃から作曲において自分の意思が固まりつつあった時期だったので、中橋先生のレッスンでもちょっとわがままな生徒だったかもしれないです。

大井
そんな風にして自分に厳しさを課して勉強していた経過を僕は全く知らなかったわけですから、日本音コン作曲部門第1位の報道を目にしてすごい驚いたわけですよ。東京音大に補欠合格したらしいという話を聞いてから、たった5、6年の話でしたから。受賞作品の演奏を放送で聴きました。僕は作曲家ではないのであんまり分析的には聴けないんですけれども、この作品からはこういう音に進みたいという意思の力みたいものを感じて、トランペットを吹いていたあの高校生がこういう作品を書くようになったんだと嬉しい驚きがありました。
Part 2 動画版はこちら
The Wind Praiseに隠された秘密
――福丸さんが語る新曲の誕生秘話
大井
佼成ウインドが新しい吹奏楽作品を演奏していくっていうことはすごく大切なことだと僕は思っていて、最初は僕の個人委嘱で作品を頼んでそれを自分が振る佼成ウインドの定期演奏会にその作品を載せようと思ったんですね。それにあたってどういう作曲家の人に頼もうかと考えているときに、何人かの作曲家の作品をインターネットで聴いていたわけです。その中でも福丸さんの曲は全然吹奏楽っぽくないし、どうやらまだ吹奏楽の曲はほとんど書いてないけど中橋さんに習いたいと思って勉強をしていたはずだから吹奏楽を知らないはずはない。これは面白そうだと思い、完全に独断で福丸さんに曲を書いてくれますかと頼みました。その時は佼成ウインドで演奏するという話は全くしませんでした。そのあと偶然にも、佼成ウインドから福丸さんと作曲家がいて作品も面白そうだから是非委嘱をお願いしようと提案があり、そこで改めて佼成の定期で演奏する作品を書いてくださいと福丸さんにお願いしました。最終的には僕だけの委嘱じゃなくて佼成ウインドと一緒にお願いしようということになったのが今回の委嘱の経緯です。

この新曲には、The Wind Praiseという題名がついています。これにはどういった意味が込められているんでしょう。

福丸
このウインドプレイズとタイトルにはそれぞれの単語に2つの意味を持たせています。ウインドの1つ目の意味は吹奏楽です。プレイズは第一義的には褒めたたえる、賛美するという意味がある一方でお祝いするという意味もあるんですね。この曲は大井先生と佼成ウインドとの共同委嘱ということで、2014年に大井さんの正指揮者就任の演奏会をやってから10周年の年に入りますので、大井先生と佼成ウインドの10周年を祝うような音楽にしたいっていう想いでこのタイトルをつけさせていただきました。この曲は比較的伝統的な作曲手法である主題労作や模倣対位法的な方法で書かれています。
福丸
実は、メインとなる旋律はTakeshi Ooiの音列でできています。大井先生のTakeshi Ooiっていう9個のアルファベットを音に変換してメロディにしました。臨時記号は便宜的につけたりしたんですけど、この最初にトランペットが奏でるこの祝祭的な主題っていうのはまさに大井先生のテーマというわけです。たとえば最初の2つの音は実音でFisとAとなっていますが、アルファベットのTは実音Fに変換され、アルファベットのAは実音Aにそれぞれ変換されます。これでTakeshiのTaが完成です。
大井
そういう変換の方法があるんですか?
福丸
はい。例えばラヴェルの『ハイドンの名によるメヌエット』でも用いられるようにアルファベットを音名に変換するための表があります。今回はそれに則って書かせていただきました。
福丸
それからもう1つの意味は、ウインドはもちろん風です。風はギリシャ語でプネウマ(πνεῦμα)と言い、プネウマは、キリスト教の三位一体における聖霊を意味しています。これがウインドのもう一つの意味です。私はキリスト教信仰と音楽の関わりを、自分の創作にとって大切なテーマとしていて、大学院に入ってからも研究テーマとして扱ったので、これまでの音楽の勉強の成果を敷衍(ふえん)するような形で、こちらの作曲にも生かしたいと考えていました。プレイズの2つ目の意味は、第一義的な意味での賛美、いわゆる礼拝です。このプレイズという言葉は、特にアメリカの黒人音楽を指す言葉でもあります。黒人教会のキリスト教会の礼拝を知らない人も多いと思いますが、すごくハイテンションでリズミカルでアップテンポ・アップビートに乗ってノリノリで賛美をするんです。今通ってる教会で月1回程度ゴスペルの伴奏もさせていただいていて、小さい頃からゴスペルとも馴染みがあるので、黒人教会の音楽の要素も入っています。
福丸
話は戻りますが、ウインドは聖霊を象徴するので、聖霊のことを歌った有名なグレゴリオ聖歌も、大井さんのテーマと同時進行する形でこの曲の中に埋め込まれています。4分半の短い音楽なのですが、言ってみれば2つの音楽が同時に流れてるような曲になっています。
大井
今朝パっとスコアを見ただけでまだ勉強ができているとは言えないですが、最初のハープのD Majorのグリッサンドに象徴されるようにとても調的な音楽だと感じました。また、確固たるテーマがあり、主題が展開されていき、2つ目の主題が登場し、といったように調的でもあるうえに古典的にもできていると思いました。いわゆる鉤括弧付きの現代音楽の世界の曲が来ると思っていたのでちょっと驚きはありましたが、いろんなものが煮詰まって考え抜かれた音楽ということが今の話でよく分かりました。

曲の冒頭にModerately Fastって書いてあるんですね。Moderately FastといえばヒンデミットのSymphony in B♭ が思い浮かびます。何か関係があるのですか?

福丸
はい、関係があります。私が大学院でキリスト教信仰と音楽という視点から研究した作曲家がまさにヒンデミットだったんですね。ヒンデミットの交響曲が大好きなんです。2014年の大井さんの正指揮者就任披露演奏会で初めてヒンデミットの交響曲を聴いて、その時は何が起こってるのかさっぱりわからないような印象だったのですが、のちにヒンデミットが好きになりました。今では近現代までのクラシックの作曲家の中でヒンデミットは一番好きな作曲家なんです。なのでヒンデミットの何かを受け継いで書きたいと思いました。機能和声的な音楽ではないところなど、おそらく無意識な影響もたくさん受けていると思います。

中橋先生も今ほぼ初めてこの楽譜をご覧いただいているわけですが、どんな風に感じますか?

中橋
すごく特徴的な言葉としてSequentia I~V とありますが、Sequentiaという言葉を書く人は珍しいと思います。なぜこの言葉でいわゆるバリエーションを表したのでしょうか。
福丸
引用したグレゴリオ聖歌の歌唱スタイルがSequentia、日本語にすると「続唱」と言います。初めに1番の歌詞を2、3人で歌うんですね。今度は10名以上の合唱隊がそれに続いて2番を歌う。次に3番の歌詞をまた少人数で歌って、4番の歌詞を大人数で歌う。これが10番まで続きます。なので、1番2番を1セットとすると5回出てくるのでSequentiaがI~Vまであるということです。そういうセクションの作り方になっているということを楽譜に書いておきたいという考えがありました。
大井
福丸さんには自由に書いていただこうと思って、曲の内容についての細かいオーダーはしていないんです。なので言わば形式的に厳格な音楽で来たっていうのはむしろ新鮮でした。非常に明るさもある曲で、お客様が構えなくても聴いていただける聴きやすい作品だと思います。また、その中身は非常に細かく仕組まれていて、聴きごたえも十分にあると思います。演奏はそこそこ大変で、ちゃんとみんなで仕組みを理解して組み合わせて、ちゃんとリハーサルしないといけない音楽です。いろんなピースが組み合わさった時にすごく面白くなる曲という感じがして、これからスコアを読み込んでいくのがすごく楽しみです。 この曲を演奏できることが、そして私の人生の中で自分の名前が音列にされたことはかつてないので、とても嬉しいです

中橋さんから何か曲について

中橋
僕も昨日の夜ざっと眺めただけなので...。でも僕が最初にヒンデミットっぽいなって思ったのはリズムの嚙み合わせ方です。木管楽器でホケトゥス的に補完しているスタッカートの16分音符の絡みであるとか、ティッタラッタラッタラっていうリズムであるとか、そういうところにヒンデミットっぽさを僕は感じました。だから概念的なところだけではなく、リズム的なところもすごくヒンデミットっぽいなあと感じました。後半に行くにしたがってだんだん音の密度が緩やかになっていく流れっていうのも面白いなと思いました。それは音楽的に痩せ細っていくという意味では決してなく、むしろ充実していくような流れ方が、生で聴いたら多分温かくなるんだろうなと想像できます。Sequentia Vのあたりとかすごく興味深く見ています。
大井
どんな風に響くかは是非お客様にコンサートの会場でご確認いただきたいと思います。
Part 3 動画版はこちら
科戸の鵲巣に込めた思い
――佼成ウインドの次期常任指揮者、新たな章への序曲
大井
1月26日の定期演奏会では、この福丸さんの新作『ウインド・プレイズ』に始まり、最後に科戸の鵲巣が置かれているわけです。福丸さんが聴きに来てくださった私の正指揮者就任披露演奏会の1曲目も科戸の鵲巣でした。2024年の4月から常任指揮者に就任しますので、この正指揮者としては最後となる定期演奏会の最後にもう1度演奏して、佼成ウインドと自分がどんな10年間を過ごしてきたのかをこの曲の演奏の中に見てみたいという気持ちと、それをお客様と共有させていただけたらという気持ちもあって科戸の鵲巣を選んだわけです。

中橋さんにとってもこの科戸の鵲巣は非常に大切な曲であると思いますが、2004年にこの曲を書いた当時のことを簡単に教えていただけますか?

中橋
2004年というのは私が大学院を卒業して2年後なのでちょうど今の福丸君と同じくらいの時ですね。この科戸の鵲巣という曲は、公式に出ているものとしては僕の2曲目の作品で、非公式なものを含めても3曲目です。割と初期に書いた曲なので今見ると「わっ」て思うところもあったりするんですが、それでもやっぱりこの作品にはとても思い入れがあります。自分の曲にしては珍しく調性的な音がする作品でもあるので、正直これを自分の代表作というには若干の抵抗を持っていたりもするんですが、それと大事な曲っていうのはまたちょっと別なものだと思います。個人的な思い入れもたくさんこの曲には含まれていたりするのでいろんな意味で大事な曲です。
大井
福丸さんの話とも結びついていくんですけれども、中橋さんも大学ではいわゆる鉤括弧付きの現代音楽を勉強し、そういう作品も書いていたと思いますが、科戸の鵲巣でそのスタイルをとらなかったのには何か理由があるんですか?
中橋
委嘱をくださったのは陸上自衛隊中央音楽隊で、その創隊50周年を記念した曲として祝典序曲を書いてくださいと頼まれたわけなんです。自衛隊って広報活動を担うところでもありますので、分かりやすい曲でお願いしますっていうことをオーダーいただいていたので、聴いた感じはとても聴きやすくなっています。ただ、この曲を演奏してくださった方も非常に多いと思いますし、大井さんも当然お分かりだと思いますけれども、音がすごく調性的だからといって、1か所聞きやすいメロディがあるからといって、必ずしも音楽的に現代的な要素を持ってないかというとそういうわけでもないんですよね。むしろそういったことを試みてみたかった作品という意味でも私にとって異例の作品でしたし、やっぱりやってみて分かったこともたくさんありますので面白い経験だったと思っています。
大井
福丸さんのこのウインドプレイズもお祝いの作品で書いてくれたということなので、あと20年経ったらウインドプレイズは自分にとっては異色の作品だと言うかもしれないからなんかちょっと偶然にも似てるところがあって面白いですね。
大井
2014年の演奏会で科戸の鵲巣を演奏しようとしたときに、スコアが大変申し訳ないんだけどちょっと見づらいですっていう話をしたら、中橋さんが新しく作りますよっておっしゃっていただいて、それでできたのが≪Edition TKWO≫という版なんです。当初スコアは綺麗に見やすくして欲しいとは思っていたけれど、こういう風に出来上がってくるとは実は思っていなかったんです。

通常の版とこの佼成ウインドのエディションとの違いについて簡単に教えていただけますか?

中橋
元々の版っていうのは、先ほど申し上げたように陸上自衛隊の中央音楽隊のために書いたものです。あのバンドは、演奏会によっては全国各地の音楽隊からエキストラを応援に呼んだりして、最大編成だと80人を超えるような編成をとることもできる非常に稀有なプロの団体だと思います。これはいわゆる吹奏楽、音楽学用語で僕はミリタリーバンドっていう風に定義してますけれども。ミリタリーバンドってのは必ずしも軍楽隊という意味ではなく、編成というものがその時そのバンドの事情によって大きく変わるという特徴を持っています。学校の吹奏楽もそうですよね。いわゆる吹奏楽の普通のスコアというものは三管編成の管弦楽の伝統に乗っ取ってスコアリングされてるわけですけど、実際にはクラリネットはもっとたくさんいたりするわけじゃないですか。それを逆手にとってクラリネットの人数が何人でも効果的に演奏でき、吹奏楽ならではの独自の表現っていうものを追求することができるのではと思っています。ただ単にクラリネットをたくさん使えばいいというわけではなくて、その時その時によってクラリネットが6パートだったり3パートだったり8パートだったりっていう風に状況が変化することによって、どの線を強くするかっていうことがその時その時で指揮者あるいはプレイヤーの判断で変えることができるわけですよね。それによってその団ならではの表現ができるようになるのではないかというような編成の可変性に試みたのが実は最初の版なんです。
中橋
それを佼成ウインドさんに演奏していただくという時になった場合、やはり佼成ウインドといえばマエストロ ・フレデリック・フェネルが作り上げてきたウインドアンサンブルの概念というものを体現化してきた団体ですので、折角やって いただけるのであれば、そのいわゆる可変的ミリタリーバンドのトップである陸中音とウインドアンサンブルの頂点にある佼成ウインドそれぞれで編成的な違いを作れば、その差異というのが明らかになるのではないかと思いました。なので、簡単に言うと1パートあたり 1人で演奏するウインドアンサンブルの考え方で元々のものを書き直したのが ≪Edition TKWO≫ということになります。だからとても精微に作曲者側でバランスを整えることができるので、逆に言うと演奏者側にそこら辺の可変性というものを求めないというのが大きな違いであり、佼成ウインドが演奏するというよりも ウインドアンサンブルが演奏するということがどういうことなのかを求めたのがこの版と言えると思います。
大井
もしかしたら元の版だったらこちらで色々ちょっと調整しないといけなかったところが、この版を書いていただいたことで私たちにとってはとても演奏しやすくなっています。スコアをみると人数分の段がありますね。なのでスコアが非常に段数が多いんですけれどもとても私たちにとっては演奏がしやすくなっていて、誰 1人欠けても成り立たないという言い方は極端かもしれないけれども、他のパートで埋めるようなことができないような譜面になっていて、私たちにとってはどの奏者もやりがいがある楽譜になっています。その2014年以来私も演奏していないので、とても久しぶりにこれが演奏できるのは楽しみです。

当時科戸の鵲巣を聴いた時の印象とか覚えてますか?福丸さん

福丸
1番最初に聴いたのは中学校2年生ぐらいの時に当時の部活の顧問の先生が流してくれたんですね。それはおそらく中学生のコンクールの全国大会の演奏でした。それこそ普門館での演奏の映像を流してくれて、君たちと同じ年代で同じ給食食べてる子たちがこんな演奏するんだぞみたいな感じで聴かせてくれたのが科戸の鵲巣でした。それまでこういう音楽って聴いたことがなかったので、すごく衝撃を受けたっていう意味ではやっぱり中橋先生の作品との出会いのきっかけは科戸の鵲巣です。その後もこれを超える吹奏楽のスコアに出会うことなくきたので、自分の中でこのっていう作品は特別な存在感を放っていますね。
大井
今度の定期演奏会の当日はお2人も会場にいらしていただけるそうですので、また10年ぶりに科戸の鵲巣も聴いていただいて、思いを新たにしていただけるようにこちらも頑張って一生懸命演奏したいと思います。
大井
話は尽きないんですけれどもここら辺でということで、本日は色々とお話を聞かせてくださりありがとうございました。作曲家の福丸さんと中橋さんに本日はお越し いただいて本当に色々な興味深いお話を伺わせていただきました。本当にありがとうございました。

【第163回定期演奏会】
2024年1月26日(金) 19:00開演(18:15開場)
会場 なかのZERO 大ホール
指揮 大井剛史(正指揮者)

<曲目>
ウインド・プレイズ(大井剛史・TKWO共同委嘱作品/世界初演)/福丸光詩
アスパイア(日本初演)/J.ヒグドン
金管楽器と打楽器のための交響曲/A.リード
交響曲第5番「さくら」/A.リード
科戸の鵲巣 --吹奏楽の為の祝典序曲≪Edition TKWO≫/中橋愛生
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第163回定期演奏会