リード最初期の名曲から、委嘱新作まで――
大井&東京佼成の新たな挑戦!
富樫鉄火(音楽ライター)
“吹奏楽の神様”アルフレッド・リードは、生涯に5曲の交響曲を書いた。TKWOの正指揮者・大井剛史は、いままでに第2、第3、第4を演奏してきた。そして今回、残りの2曲を演奏することで、ついに「リード交響曲全集」が完成する。特に今回は、リード最初期の1952年に作曲された事実上の第1と、1995年作曲の第5(第2楽章が〈Sakura〉と題されている)という、最初と最後の2曲が演奏される。この2曲には40数年の時間差がある。その間に、リードの音楽にどのような変化が生じたのかがわかる、たいへん興味深いプログラムだ。
そして、いまや日本吹奏楽界の至宝ともいえる中橋愛生の名曲《科戸の鵲巣~吹奏楽の為の祝典序曲》がひさびさに登場する。陸上自衛隊中央音楽隊の委嘱で2004年に誕生した曲だが、今回は2014年に東京佼成ウインドオーケストラのために改訂された版で演奏される。オリジナルは大人数のための「可変編成」だったのを、原則1パート1人に確定した「ウインド・アンサンブル」版だ。いうまでもなくTKWOは、桂冠指揮者フレデリック・フェネルが創始した「ウインド・アンサンブル」編成を、当人の指揮で早くから実現させてきた。いわば、本流の響きであの名曲を楽しむことができるわけで、それだけに貴重な機会である。
そのほか、今回は「隠し玉」ともいえる最新作が2曲、用意されている。まず2021年の日本音楽コンクール作曲部門で1位を獲得した新鋭、福丸光詩の委嘱新作初演。幼少時よりキリスト教会に親しみ、信仰と音楽を真摯に追ってきた若き作曲家だ。東京音楽大学では中橋愛生に師事したとのことなので、今回の演奏会は、作品での“師弟競演”となる。果たしてどのような曲が届けられるのか、興味津々だ。
さらに、ピューリッツアー賞やグラミー賞を受賞しているアメリカの大人気作曲家、ジェニファー・ヒグドンの《アスパイア》もある。2022年のWASBE(世界吹奏楽大会)で米海兵隊バンドが初演したばかりの新作で未出版(2023年夏現在)。今回は作曲者本人から直送されたスコアによる「日本初演」となる。
リード最初期の名曲から、まさに「いま」生まれたばかりの最新作まで、これほどヴァラエティに富んだ吹奏楽のコンサートは、まずない。大井剛史とTKWOの挑戦を、期待をもって見守りたい。
(敬称略)