今回この依頼があった時、最初は断るつもりでした。直感的に吹奏楽では無理!と思ったのと、ベートーヴェンの傑作を汚したら申し訳が立たない! というこの曲へのリスペクトからです。しかし、改めてこの曲を聴いて冷静に考え直しました! 私は世間的には吹奏楽作曲家として認められてきていますが、中学・高校から市民オーケストラに入って活動し(Violin,Violaを担当)、大学生の頃から現在まで、数多くのアマチュアオーケストラや吹奏楽団を指揮・指導してきて(私は岡山大学のオーケストラを今年で60年間継続して指導しています)、しかも私の多くの作品の原曲はオーケストラの曲で、それを吹奏楽用に改編してきた経歴(「古祀」「祝典舞曲」その他)など、私は本来オーケストラの響きに魅せられたオーケストラ人間なのです。したがって、この編曲は私にしか出来ない、神様が私に人生最後の大仕事として与えてくださった! と信じることにして、この難題を引き受けることにしました。もう一点、個人的には、あの「第9」を、長年付き合ってきた吹奏楽用に書き換えたらどんな響きを作れるだろうか? という作曲家としての職業的興味・挑戦意欲に火が付いたからです。
私は来年90歳になります。この歳になると、周りから何を言われても気にはならなくなります。誰もが恐れ多くて手を出せなかった「第9」の吹奏楽版! やはりこの編曲は私がやるしかなかったか、と観念して編曲を楽しむことにしました(3楽章がどんな響きがするか? 私が最も腐心した箇所なので心配だけど楽しみです)。
作曲家、東京芸術大学作曲科卒、卒業作品で日本音楽コンクール第一位を受賞、2008年にイタリアで行われた国際ホルンコンクールにおいて、ホルンとオーケストラのための「巫女の舞」が必須課題曲に採用され、更に、同曲のユーフォニアム版は一昨年にアメリカで行われたITECにおいても課題曲に採用されている。また、アマチュアを対象とした指揮・指導法はそのユニークな演奏解釈理論とともに定評がある。このような長年にわたる教育・創作活動が評価されて、平成27年秋の叙勲において「瑞宝中綬章」が授与された。
主な作品、オペラ「はだしのゲン」、「吹奏楽のための交響曲1~3番」、「古祀」「風紋」「復興」その他。
兵庫教育大学名誉教授,
浜松アクト音楽院・音楽監督、日本バンドクリニック委員会名誉顧問、フィルハーモニックウィンズ浜松・音楽監督。