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【第175回定期演奏会】保科洋×大井剛史 特別対談

2026/09/13
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保科洋が語る「交響曲第2番」と、作品との向き合い方

9月21日に開催される「第175回定期演奏会」では、下野竜也の指揮で保科洋の《巫女の舞》と《交響曲第2番》を演奏します。
2026年に90歳を迎えた作曲家・保科洋。長年にわたり吹奏楽の世界で数多くの作品を生み出してきた保科にとって、「交響曲を書く」とはどういうことなのか。
今回は、東京佼成ウインドオーケストラ常任指揮者・大井剛史が保科本人に、交響曲第2番が生まれた背景から、完成した作品との向き合い方までじっくりと話を聞きました。


「交響曲を書く」ということ

大井
第175回定期演奏会では、下野竜也さんの指揮で先生の《交響曲第2番》を演奏します。
先生は1996年の《交響曲第1番》まで交響曲をお書きになりませんでした。それまで書かなかった理由はなにかあるのでしょうか?
保科
単にきっかけがなかったんですね。
でも、「シンフォニーを書きたいけれど、書くチャンスがない」と思っていたわけではありません。その頃、僕は吹奏楽を主に書いていましたから、吹奏楽でいわゆるオーケストラの交響曲のような長大な曲を書くのは無理だという先入観があったんです。
《交響曲第1番》は、大阪市音楽団から委嘱をいただいたことがきっかけでした。ただ、実はあまり気に入っていなかったんです。
でも、自分の中では失敗作だと思っていたこの作品を、2022年にオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラと大井さんが改訂版として生き返らせてくれました。とても嬉しかったです。

交響曲は、大きな建物

大井
先生にとって、交響曲とはどういうものなのでしょう。
保科
巨大な建物みたいなものですね。何もないところから大きなものを構築していくわけですから。
そのためには、それを組み上げていくだけの「材料」が必要になります。小さなモチーフでも、それを展開していって、全体をつくっていけるものでなければならない。
交響曲を書くというのは、作曲家としての技術や、何もないところから一つのものを構築していく力が試されるんだと思います。
曲のテーマを決めるとき、それは本当にインスピレーションでしかないんだけれど、そのテーマがモチーフ展開に耐えられるかどうかを見極める力というのは、作曲家にとってものすごく重要なんです。
そういう点でベートーヴェンは傑出してすごいと思うんです。こんなの我々じゃ絶対テーマにできない、というようなものをちゃんとテーマにして、しかも立派な曲を作っちゃってる。
いろんなことに応えられるだけの可能性を持っているモチーフかどうかを見極める。これは実際に展開させていくテクニックと表裏一体なんです。
交響曲というのは作曲家にとって、やっぱりものすごい挑戦なんですよ。
物語があって、その筋書きを音楽で表現するということは誰でもやるし、そんなに難しいものではないと思う。でも、何もない状態から一つずつ積み重ねて構築していくというのは、本当に大変ですよね。
だから交響曲を書くということは、作曲家にとっては、自分の腕を試すというところもあると思います。

《交響曲第2番》――保科が愛する「第2テーマ」

大井
《交響曲第2番》は、広島ウインドオーケストラからの委嘱でしたね。
「第1番」や「第3番」と比べると、少しシリアスな色が強いように感じます。聴く側もより集中力が必要で、作品の中に引っ張り込まれるような感覚があります。
保科
《交響曲第2番》は自分でも好きな曲です。特に第1楽章は、この曲の中でもよくできていると思います。
僕は第1テーマも好きなんだけど、実は第2テーマが一番美しくて好きなんです。
この第2テーマは、もちろん新しいテーマなんだけど、対旋律は第1テーマのモチーフなんです。これは、意識して作るんじゃなくて、自然に湧いて、メロディーと対旋律が一緒に浮かんでくるんです。
それが立体感や説得力を生んでいると思います。僕の曲にもし特徴的な魅力があるとすれば、そういうところじゃないかなという気がします。

《交響曲第2番》――作品と向き合い続ける

大井
今回、佼成ウインドで演奏するにあたって、《交響曲第2番》は少し改訂される予定ですよね。
保科
はい。第3楽章は少し直したいと思っています。
交響曲って長いから、その間ずっと自分の創作的なスタミナを維持できなくなることってあるんですよね。
当時は、まだシンフォニーを書く経験が足りなかったのか、創作意欲はあってもスタミナが続かないんです。
もし時間制限がなくて、いつでも書いていいのであれば、そういうものがもう一回湧いて出てくるんだと思います。でも、ある決められた期間にそれを維持していくというのは、正直、相当なスタミナがいるんですよ。
だから、曲の終わりの方に、どうしても自分でもスタミナが途切れちゃってるなというのを感じるところがあって、それを後になってから見るとよく分かるんです。
「ああ、そうか。今だったらこう直せる」って。
で、直したくなるんですよね。
大井
僕からすると、先生の作品の強度、集中力の高さをものすごく感じます。
佼成ウインドの委嘱で《交響曲第3番》をやったときも、みんなたまげていましたよ。
保科
《交響曲第3番》はね、ちょうどコロナの時期で僕はいろんな仕事が全部キャンセルになって、時間が確保できたというのもすごく大きかった。
あれがなかったら、ああいうふうには完成できなかったですね。
時間があれば、そういうスタミナを取り戻せるんですよ。

《巫女の舞》からみる、作品を磨き続ける姿勢

大井
今回、ユーフォニアムの岩黒さんがソリストを務める《巫女の舞》も、もともとは別の編成のための曲だったんですよね?
保科
はい。《巫女の舞》は、もともとはホルンとオーケストラのために書いた作品です。
あの曲は、海外で楽譜を出版することになったのですが、一度出版されてしまうと、出版社がなかなか直させてくれないんですよ。《巫女の舞》では、本当に痛い目に遭いました。
そういうこともあって、僕は出版社から出すのをやめようと思いました。全部自分のところで管理すれば、直したいだけ直せるから。
結局、自分が気に入らないものを残したくないんですよね。
もちろん、最終的にその作品が良いか悪いかを決めるのは僕じゃないけど、少なくとも自分自身が納得いく形で残しておきたいんです。

おわりに

2026年9月21日に開催する第175回定期演奏会では、保科洋の《巫女の舞》と《交響曲第2番》を、下野竜也の指揮でお届けします。
作曲家自身の手によって磨き続けられている作品。その背景を知ることで、音楽の聴こえ方もまた変わってくるかもしれません。
保科洋が「大きな建物」と語るシンフォニー。その精緻で荘厳な構造美を、ぜひ会場でご体感ください。

保科洋 Hoshina Hiroshi (作曲)
保科洋
作曲家、東京芸術大学作曲科卒、卒業作品で日本音楽コンクール第一位を受賞、2008年にイタリアで行われた国際ホルンコンクールにおいて、ホルンとオーケストラのための「巫女の舞」が必須課題曲に採用され、更に、同曲のユーフォニアム版は一昨年にアメリカで行われたITECにおいても課題曲に採用されている。また、アマチュアを対象とした指揮・指導法はそのユニークな演奏解釈理論とともに定評がある。このような長年にわたる教育・創作活動が評価されて、平成27年秋の叙勲において「瑞宝中綬章」が授与された。
主な作品、オペラ「はだしのゲン」、「吹奏楽のための交響曲1~3番」、「古祀」「風紋」「復興」その他。
兵庫教育大学名誉教授, 浜松アクト音楽院・音楽監督、日本バンドクリニック委員会名誉顧問、フィルハーモニックウィンズ浜松・音楽監督。

第175回定期演奏会~下野竜也、「2」の魔術~

2026年9月21日(月・祝)
開演:14:00(開場:13:00)
東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:下野竜也

ユーフォニアム:*岩黒綾乃

曲目:
・呪文と踊り/J.B.チャンス
・交響曲第2番/J.B.チャンス
・巫女の舞*/保科洋
・交響曲第2番/保科洋

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