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なぜプロは楽譜に『一音入魂』と書かないか

安藤真美子(Trumpet)
2013.6.23
2013.6.30

なぜプロは楽譜に『一音入魂』と書かないか?


それは、演奏のジャマだから。


吹奏楽部のレッスンで、実際に吹いて教えようとして譜面台を覗くと、鉛筆や色とりどりのペンで書き込みがしてあって、肝心な楽譜が読めない・・・・

『めざせ金賞!』『一音入魂』といったスローガンから、先生に言われたであろう『リズム転ばない』『はっきり』『頭そろえる』『短く』『クラリネット聞いて』などの注意事項。
そして!最もやっかいなのが、丸でグルグル囲まれたダイナミクスや音符の数々。アーティキュレーションやアクセントなどの記号は、そのグルグルによってもはや見えない。
「この丸は何?」と聞くと、丸した理由を忘れていたり・・・。


今回は、特に中高生の皆さんに向けて【楽譜を読む】ということの基本をお伝えします。

例えばコンクールの曲は、何ヶ月も取り組むことから、もう楽譜なんて覚えてしまっているかもしれません。
でもちょっと待ってください。その覚えているのは「音符」だけではないですか?楽譜に書かれている「音符以外の事」、それこそが作曲家からの大切なメッセージなのです。
これを自分で読み解くことができれば、合奏、そして仲間と演奏することがもっともっと楽しくなります!

楽典やソルフェージュ、和声やアナリーゼなどは時間がかかります。(もちろんやった方がいいですが!)でもこれからお話することは、すぐに実践できることばかり。実は楽器の経験年数からいくと、皆さんはとっっっても難しいことをやっているんですよ。スゴイです。脱帽です。でも、そこにもう少しだけ楽譜を読む時のちょっとしたコツをプラスしてみましょう。


<<合奏と個人練習>>

私たちにとって「合奏」は最後の仕上げであって、「個人練習」の段階でほとんど完成まで持っていきます。つまり、合奏では、合奏でしかできないことを練習するのです。
スタイルを統一したり、アンサンブルを整えたり・・・つまり個々に仕上げたものの方向性を指揮者の下でそろえていく作業が「合奏」なのです。

では、その個人練習はどうやっているのか!?
それは知れば知るほど楽しい作業です(^^)/


<<実は全部書いてある!!>>

考えてみてください。もし楽譜に音符しか書いていなかったら・・・

テンポもダイナミクスもわからないですから、どうやって演奏したらいいのやらさっぱりわかりませんよね。
そこで、あなたのそばにいることができない作曲家は、手を尽くして「こんな曲です。こうやって演奏してほしいです!」と伝えようとしているのです。
さあ、早速そのメッセージを解読していきましょう。


<楽語に注目!>

ほとんどの曲には、その曲がどんな速さでどんな雰囲気なのかが分かるような言葉が記されています。
例えば、[Adagio]なら、ゆったりとしていて、静かで穏やかな感じがしますし、同じ遅いテンポの曲でも[Grandioso]とあれば、堂々と威厳を持った音楽なんだなと予測できるわけです。これらの言葉を理解することで、どんな音色でどんな風に歌ったらいいのかある程度わかります。メトロノームの速度表示だけではなく、楽語から伝わる曲の雰囲気を演奏に活かしてみましょう。

曲中には他にもdolceやmarcato、brillanteなど、場面ごとのキャラ設定が随所に見られます。すぐに楽語辞典でチェック!見逃さないでくださいね!


<ダイナミクスは計画的に>

私たちは、[f]という文字を見ると、無意識にがんばってしまう動物です(T_T)

でも、ちょっと待って!後でffやfffが出てきませんか??楽譜を俯瞰(ふかん)してみましょう!その曲の一番強いダイナミクスから逆算すれば違いを出すことができます。いざクライマックス!という前に盛り上がりきってしまっては、音楽が台無しです・・・

mfとfのような一見微妙な違いも大切です。例えば課題曲のマーチでは、第一テーマがmfで、コーダがfであることが多いですが、それは音量の差だけではなく、mfはまだまだ序盤で鼻歌のように軽やかで余裕がある感じ。コーダのfは「最後だぜー!!」とテンション上げて力強くなる感じ(私の個人的意見)。ダイナミクスにはそんなものも含まれています。

そして、[p]こそあなたの表現力の見せ所です!こちらもボリュームだけではありません、どんな表情のpなのか、pが美しいと聴く人をグッと引きつけます。mfより弱いところはみんな一緒になっていませんか?
pはしっかり作り込まないとpになりません。一人一人がmp、p、ppと美しい音で違いを表現できるようになりましょう。自分の中に、ある程度「ダイナミクスの物差し」を持っていることが大切です。

また、cresc.やdim.も、「はい、書いてあるからやりました。」ではなく、どこから始まって、どこが目的地で、どの辺でどれくらい強く(弱く)するのかというのがフレーズの仕上がりに大きく関わってきます。センスが問われま
すよ~♪
もう少し細かく言うと、メロディの中の表現としてのものと、次の場面へ向かうためのものとでも違ってきます。そういった曲全体の設計図を理解して、実際に自分なりに組み立てておきましょう。

<フレーズとは>

「フレーズ」ってよーく言われるけどなに?フレージングってどうやればいいのぉぉぉ(T_T)

はい、フィリップ・ファーカス著「プロ・プレイヤーの演奏技法」には、こう書いてあります。

ーーフレーズとは、理解可能にすること

どういうことでしょう?
まず以下の文を声に出して読んでみてください。

ーーさっきょくかがろうをおしまずはっきりしじしてくれているあーてぃきゅれーしょんをむしすることはごんごどうだんであるおんがくげんごをりかいするためのひんとがこれだけほうふにあたえられているからにはえんそうかたるものさっきょくかのいとをすこしでもせいかくにりかいすべくさいだいげんかつようすべきであろう

最初は少々つまずくかもしれませんが、日本語を理解できる人であれば、すぐに上手に読み上げることができるでしょう。頭の中で自然に単語に分け、必要なところで間をあけ、ただの文字の羅列から、文章として意味が明確になるーすなわち理解可能になるーのです。

このひらがなの羅列を理解可能な文章(フレーズ)に直すとき、ほとんどの人が「言語道断である」の後に「。」を付けると思います。一つの段落に2つの文、つまり大きな一つのフレーズに2つの小さなフレーズがあると言えます。
そして抑揚を付け、はっきりと聞く人に伝わるように読み上げる、それがフレージングなのです。

これをあなたの目の前にある譜面で考えてみるわけですが・・・

私の大好きなトランペット奏者、ロバート・サリバン氏がこんなことを言っていました。(受け売りばかりでスミマセン(^_^;))

ーー作曲家は、頭に浮かんだ音楽をプレイヤーに伝えるべく、小節線でぶった切って楽譜にします。ですから、その小節線を取っ払って、なるべく長いフレーズにするのがプレイヤーの仕事なのです。

ふむ、納得。

ではでは、さっそく音符の羅列にフレーズの句読点をつけてみましょう!みんなで考えても楽しいですね。
演奏する時には、もちろん拍子やリズムを正確にカウントするのですが、それとは別に頭の中でフレーズごとに一つのレガートでくくったように大きくとらえます。サリバンさんの言葉通り、小節をとっぱらって、長く長~くですよ♪

最後はその朗読のしかた、つまりフレージングに欠かせない「記号」についてです。


<記号を無視しないでぇぇ(T_T) by作曲家>

実は先ほどのひらがな例文、同じくF.ファーカス氏の著書からの引用でした。

ーー作曲家が労を惜しまずはっきり指示してくれているアーティキュレーショ
ンを無視することは言語道断である。音楽言語を理解するためのヒントがこれだけ豊富に与えられているからには、演奏者たるもの作曲家の意図を少しでも正確に理解すべく最大限活用すべきであろう。

みなさんはいかがですか?アーティキュレーションや、音符一つ一つについているスタッカートやアクセントなどの記号を、自分の都合で勝手に変えてしまったり、もしくはそもそも無視してやいませんか?それでは作曲家がかわいそうですし、曲の良さは充分伝わりません。
アーティキュレーションや記号は、前出(先週号)の「楽語」や「ダイナミクス」によって固まってきた場面設定の中でさらにその性格を決定づけるものです。まずは書いてある通りにやってみる!難しそうだったらまず歌ってみる!
すると、初めはもたつくかもしれませんが、だんだん音符を読むのと同時に記号にも反応できるようになってきます。「作曲者は私にどう演奏してほしいだろう?」と考えてみて下さい。
また、「自分には、それだけの技術がないからできないよ・・・」と諦めないでください。誰だって頭の中では理想の演奏がイメージできます。まずは頭の中で作る。それに近づく為に基礎練習などで技術を磨いて、「イメージと実際の演奏のギャップをなくしていく」。それが練習です♪


以上、作曲家と心を通じ合わせるような気持ちで「自分で」楽譜を解読して、練習したものを合奏に持っていけば、合奏でしかできない練習がはかどります。そこで指揮者から指示があった時、きっとその理解度が何倍も増すことでしょう。

グルグル丸で囲んだり、当たり前のことを所狭しと書き込んである楽譜が見づらいな~となってきましたか?そうなったら・・あなたも立派なミュージシャン!
個人練習で充分に準備をしていけば、書き込むことは本当に必要なことだけになり、楽譜がスッキリすることでその書き込みもちゃんと目立って読みやすくなるでしょう。

「沢山書き込んであると、なんだか勉強した気になる。」

というのは気のせい。結局どれも読んでいないのです。
必要なことは楽譜にちゃんと書いてあります。プロは特別なことをしているわけではありません。楽譜通りに演奏しているだけです。「なんで作曲家はここにこの記号をつけたのかな?ここはどんな音色でどう表現したらカッコイイかな?」ということを考えながら隅々まで読んで、それを音に変換しているのです。


【結論】プロは楽譜を見やすく保ち、楽譜からの情報を基に音楽に魂を吹き込むので、『一音入魂』とは書かないのです。

まぁでも部活は青春ですから・・・小さくなら書いてもいいかな(^_-)
自分の音楽力を信じて、仲間と素晴らしい音楽を作って下さいね。

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