必聴! 2023-24シーズンの幕開けを飾る、吹奏楽オリジナル四番勝負!
富樫鉄火(音楽ライター)
2018年に開催された、第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉は、1位から3位までを日本が独占したことで話題となった(しかも日本人の優勝は、2000年の下野竜也以来、18年ぶりだった)。世界42の国・地域から、総計238名もの応募があり、本選会は接戦だったと伝えられている。
このときの1位が、いま大人気の沖澤のどかだが、2位となった横山奏も高評価を得て、聴衆賞を受賞した。自由曲はエルガー《エニグマ変奏曲》後半部で、「理知的とでも呼べる端正な指揮」と評された(ちなみに、審査員の一人は、TKWO定期でおなじみ、オランダの名匠ユベール・スダーンだった)。
筆者は、後日のデビュー・コンサートを聴いているが、横山奏が、吹奏楽でもおなじみ、コダーイの《ハンガリー民謡「孔雀は飛んだ」による変奏曲》を美しく聴かせてくれたのを、いまでも鮮烈に覚えている。
そんな横山奏が、ついに、TKWOの定期に登壇する! しかも曲目は、4曲とも、吹奏楽の本道を行く骨太なオリジナル曲だ。
なにしろ、冒頭から難曲で知られるコスミッキ《幻想》なのだから驚く。《悪魔のダンス》のような高難度の楽曲で知られる作曲家だが、プロ吹奏楽団による演奏はひさびさかもしれない。
つづくベルギーの2人、ヴァンデルローストとアッペルモントの曲は、吹奏楽ファンには、おなじみだろう。《プスタ》はロマ(ジプシー)の舞曲をもとにした組曲で、ブリュッセルで初演された。その同じ地で発生した連続爆破テロの犠牲者に捧げられた慟哭の追悼曲が《ブリュッセル・レクイエム》だ。ともにコンクールの人気曲でもある。
そして掉尾を飾るのは、ブルジョワの交響曲第6番《コッツウォルド・シンフォニー》。もともと管弦楽曲だったが、作曲者自身によって吹奏楽版に改訂された大曲だ。
「コッツウォルド」とは、イングランド中央部の丘陵地帯で、セヴァーン川が流れる自然豊かな一帯。エルガーは、かつて、この地をブラスバンド曲《セヴァーン組曲》として描いた。これに対し、ブルジョワは、さらに壮大なスケールで、古代ローマ軍の行進やポエムに素材を得て、音の大伽藍に仕立て上げた。これまた難曲とあって、演奏の機会はそう多くはない。
これら一筋縄ではいかない名曲群を、定期初登壇の横山奏が、どのように聴かせてくれるか。シーズン幕開けにふさわしい、注目の一夜となるにちがいない。〈敬称略〉